インドネシアの労働法

近年、日系企業は海外進出をそれまでの中国一辺から、徐々にASEAN諸国へと比重を移しています。その中でも、インドネシアは日系企業の新規進出先の上位に顔を出しています。インドネシアに進出する日系企業が現地スタッフを雇い入れる際に発生するのが労務問題です。そこで、今回はインドネシアにおける労働法をご紹介したいと思います。
インドネシアの労働法制は、労働者保護の色彩が強く、その中でも大きな特徴は「日本の労働法規と比べ、極めて労働者に有利に作られている」という点です。解雇の際には正当事由が必要で、労働関係裁判所の許可も必要であったり、解雇の際には多額の法定退職金が必要になったりといろいろ問題が生じています。労働組合の活動や労働組合同士の連携も活発で、ストライキもよく起こります。また、法定退職金以上の支払いを余儀なくされることもあるようです。最低賃金もきっちりと定められているので、会社の経営には注意が必要です。 インドネシアの労働法に関し、その一部を以下でご紹介したいと思います。

インドネシアの労働法

契約社員

<2004年6月21日付労働移住大臣決定第100号(No.KEP-100/MEN/VI/2004)>
契約社員として雇用できるのは、一時的な作業、季節要因に伴う作業、新製品、新規事業活動、試行・検討段階の新規商品にかかわる作業に限られています。

  1. 一時的な作業の契約は最長3年で、当該の作業が終了していない場合に旧契約の終了から30日以上経過した後に契約を更新することができます。
  2. 季節要因に伴う作業の契約は必要な期間だけ雇用できますが、更新はできません。
  3. 新製品、新規事業活動、試行・検討段階の新規商品にかかわる作業の契約は最長2年で、1回のみ最長1年の延長が可能で、更新は不可となっています。

業務委託

業務委託とは、業務請負契約書あるいは労働者派遣サービス契約書により、他の会社に業務の一部を委託する形態を意味します。委託できる業務は、①主要な事業活動から切り離して実施されるもの、②委託側からの指示に基づいて実施されるもの、③会社全体の事業活動を補佐するもの、④生産工程を妨げないものに限定されています。
業務委託の新規定
<2012年11月14日付労働移住大臣規定2012年第19号、2014年12月31日付け労働大臣規定2014年第27号、2019年8月1日付労働大臣規定2019年第11号で変更>

  • 請負会社に委任できる作業は、①主要活動とは分けて行われる作業、②会社の命令に従って行われる作業、③各産業団体が準備する作業実施プロセス活動フローにおいてサポート的活動(ノンコア活動)とされる作業、④直接的に生産プロセスを妨げない作業に限られています。委託会社は請負会社に委任する補助的作業の種類について県/市の労働局に届け出て、届出証明書を発行してもらわなければなりません。
  • 請負会社は商業省の会社登録証(TDP)、事業許可、届出済の労務報告(Wajib Lapor)を有することが条件になっています。請負契約は、県/市の労働局に遅くとも作業開始 30 営業日前までに登録し、登録証明書を発行してもらわなければなりません。
  • 従業員/労働者サービス提供会社に委託できる作業は、補助的サービス活動または生産プロセスに直接関係しない活動に限られ、具体的には①クリーニングサービス、②ケータリング、③セキュリティ/警備、④鉱業および石油産業における補助的サービス、⑤従業員/労働者の送迎サービスに限られています。
  • 従業員/労働者サービス提供会社は PT(日本で言う「株式会社」)のことで、届出済の労務報告(Wajib Lapor)、オンライン・シングル・サブミッションを通じて取得した事業許可、固定の事務所と所在地、会社名義の納税者番号(NPWP)、事業基本番号(NIB)を有することが条件となっています。請負契約は、県/市の労働局に遅くとも契約に署名した日から 30 営業日以内に登録し、登録証明書を発行してもらわなければなりません。登録証明が発行される前に作業が行われた場合、州の労働監督局による警告書発行と、労働大臣による事業活動の凍結から成る行政罰則が科されます。
  • 従業員/労働者サービス提供会社には、契約期間にかかわらず従業員/労働者と文書で雇用契約を結ぶことが義務付けられており、雇用契約は県/市の労働局に登録しなければなりません。

残業と時間外労働

<労働・移住大臣決定 No.Kep-102/MEN/2004>
時間外労働については、労働者の合意を得ることが条件付けられています。就業時間(通常、週6日労働の場合は1日7時間、週5日労働の場合は1日8時間、いずれも1週間で40時間)を超える労働、および休日や政府が定めた祝祭日の労働に対する賃金の計算方法等が定められています。時間外労働の賃金は、月の賃金の1/173を1時間当たりの基礎賃金として、以下の基準で算出します。

労働日の残業

  1. 時間外労働の開始から最初の1時間:1時間あたり賃金の1.5倍を支払う
  2. 2時間目以降:1時間あたり賃金の2倍を支払う

休日・祝祭日出勤

  1. 週6日・40時間労働の労働者の場合ー最初の7時間:1時間当たり賃金の2倍、8時間目:1時間当たり賃金の3倍、9~10時間目:1時間当たり賃金の4倍、労働時間が最短日に重なる場合:最初の5時間:1時間当たり賃金の2倍、6時間目:1時間当たり賃金の3倍、7時間目:1時間当たり賃金の4倍を支払う
  2. 週5日・40時間労働の労働者の場合:最初の8時間:1時間当たり賃金の2倍、9時間目:1時間当たり賃金の3倍、10~11時間目:1時間当たり賃金の4倍を支払う

※時間外労働賃金の計算について労使間で意見の相違が生じた場合は、県/市、州、中央の労働当局に決定を求めます。

賃金規定

<2015年10月23日付政令2015年第78号>

  1. 賃金の構成は、「手当なし賃金」、「基本給と固定手当」、「基本給と固定手当と変動手当」の 3 パターンで、うち手当がつく場合は基本賃金は固定賃金総額の最低 75%でなければなりません。
  2. 時間に基づいて設定された賃金の 1 日の賃金は、週 6 日就業の場合は月次賃金を25で割り、週 5 日就業の場合は月次賃金を 21 で割って算出します。このほか、作業の成果単位で決定される賃金もあります。
  3. 就業時間を超えた場合、または週休日や休日に仕事をさせた場合、その補償として経営者は労働者に残業賃金を支給する義務があります。
  4. 所得税の負担は経営者でも労働者でも可能で、雇用契約や就業規則、労働協約で定めます。
  5. 罰金や損害賠償の支払い、賃金の前借り、従業員借り入れの返済、住宅など会社が従業員に貸したものに対する賃貸料の支払いを賃金から控除することができますが、控除額は賃金総額の 50%を超えてはなりません。
  6. 賃金支給はルピアで行わなければならず、会社には賃金明細の発行義務があります。
  7. 賃金支給が遅れたり、支払われなかったりした場合、経営者には罰金がかかります。
  8. 会社は、職階、役職、勤続年数、学歴、能力に注意して賃金体系を策定する義務があり、就業規則の承認や労働協約の登録を申請する際に添付しなければなりません。
  9. 経営者は、生活必需価額への調整、および作業生産性の向上のため、会社の能力を考慮しつつ、定期的に賃金を見直します。
  10. 宗教大祭手当(THR)は遅くとも宗教大祭 7 日前に支給しなければなりません。THR の支給遅れには 5%の罰金がかかります。
  11. 病欠労働者の賃金は、病欠期間が4カ月経過した時点から4カ月ごとに25%ずつ減額されます。
  12. 生理の 1 日目と 2 日目で痛みを伴う場合は、仕事に来なかったり、仕事を行わなくとも賃金を支給します。
  13. 労働者本人の結婚であれば特別有給日は3日、家族の冠婚葬祭にかかわる特別有給日は2日、その他の同居家族の死亡は1日と規定されています。
  14. 国家義務、宗教義務、経営者が承認した労働組合の職務(通知書で証明)、会社からの教育職務の遂行という仕事外の活動があった場合、週休、年休、長期休暇、出産休暇、流産休暇という休息時間の権利を行使した場合も賃金は保証されます。ただし、宗教義務の遂行のため仕事を行わなかった場合の賃金支給は、労働者が当該の会社に勤務する間 1 回のみに制限されています
  15. 退職金の計算基礎に使用される賃金は、基本給と固定手当になります。
  16. 会社が倒産あるいは解散する場合は、労働者の賃金及びその他の権利は優先支払債務となります。
  17. 州知事による最低賃金の決定は毎年、独身の労働者 1 人が適正な生活を送るのに必要な 1 か月の金額(KHL)に基づき、生産性と経済成長に注意して行われます。KHL を構成するコンポーネンツと種類は大臣によって 5 年ごとに見直されます。
  18. 最低賃金の決定フォーミュラは前年の最低賃金+{前年の最低賃金×(前々年 9 月から前年 9 月までのインフレ率+前々年の第 3 四半期から前年の第 2 四半期までの経済成長率)}とされています。
  19. 最低賃金は、当該の会社での勤続年数が 1 年未満の労働者にのみ有効です。

就業規則の作成と承認

<2011年11月17日付労働移住大臣規定2011年第16号(No.PER.16/MEN/XI/2011)>
就業規則は、10人以上の労働者を雇用する会社に作成義務が生じます。但し、労働協約をすでに有している会社には就業規則の策定義務はありません。また、外国企業については、雇用人数に関わりなく作成するよう指導されているので注意が必要です。就業規則の作成においては、労働者代表の意見や見解を聞きながら、あくまでも経営者の責任で行うこととされています。就業規則の有効期間内の変更で、その変更により就業条件等が悪化する場合、経営者と労働者代表との間での合意に基づかなければならず、労働当局の承認も必要です。承認がなければ変更は無効となります。就業規則は、管轄の労働当局の承認を得て初めて有効となります。就業規則を更新する場合には、有効期間終了日の30労働日前までに更新後の就業規則を申請し、改めて承認を受けなければなりません。

労働協約

<2011年11月17日付労働移住大臣規定2011年第16号(No.PER.16/MEN/XI/2011)>
労働協約は経営者と、労働当局に登録している労働組合との協議に基づいて作成します。労使間で合意に達しない場合は労使紛争調停手続きを取ります。労働協約はインドネシア語で作成し、労働当局に登録します。有効期間は2年間で、経営者と労働組合の間で書面の合意があれば1年の延長が可能です。会社に複数の労働組合が存在する場合は、労働当局に登録した複数の労働組合と協議します。会社に労働組合が1つしかなく、その組合員総数が全従業員の50%以下の場合は、労働担当官と経営者の立会いの下で投票を実施し、当該労働組合が過半の従業員の支持を得られれば、労働協約の協議に臨む資格が認められます。また、社内に複数の労働組合がある場合は、会社の全従業員の10%以上の組合員を抱える労働組合のうち、組合員数で上位3位までの組合と協議します。組合員数4位以下の労働組合で、その組合員数が会社の総従業員数の10%以上である労働組合がある場合は、当該労働組合は協議に臨む労働組合に合流することができます。従業員の労働組合への加入状況は、労働当局の代表と経営者の監督の下、組合員証を確認することで確かめられます。
協議については、まず協議規律を設けて協議期間等を定めますが、期間内に協議が終了せず、延長しても協議が終了しなかった場合は、経営側・労働者側のどちらか一方が現地の労働当局に報告し、産業紛争解決法に定める紛争処理メカニズムに従って処理されます。

ストライキ

労働者は、ストライキの実施日より遅くとも7日前までに、ストライキの通知を経営者に対して行わなければなりません。また、合法ストライキに対しては、ストライキ実施期間中も賃金を支払わなければなりません。
違法ストライキ <No.KEP.232/MEN/2003>
違法ストライキとは

  1. 交渉の決裂によらないストライキ
  2. 労働当局と経営者への通知なしに行われるストライキ
  3. ストライキの7日前を経過し、実施前6日間の間に通知されたストライキ
  4. 2003年第13号労働法第140条(2)項a、b、c、dを順守していないストライキ
  5. 公共サービス会社および/あるいは人命の安全を脅かす恐れのある事業を営む会社における勤務時間中の従業員によるストライキ

※違法ストライキの参加者は無断欠勤(Mangkir)扱いとし、経営者は労働者に対して猶予期間7日間に2回連続で書面にて業務に復帰するよう呼びかけ、この呼びかけに応じない労働者は自己都合による退職者とみなします。

会社閉鎖

会社の閉鎖は、経営者と労働組合の間で協議が決裂した結果、経営者側が会社を閉鎖することができるという措置です。ただし、実施日から数えて遅くても7日前までには労働者側と管轄の労働当局に通知をし、労働組合と労働当局から受領証明書を取得しなければなりません。

解雇

労働者側と合意に至らない解雇については原則、労使紛争解決機関の決定を仰がなければならず、決定が出るまでは経営者も労働者も各々の義務を果たさなければなりません。また、解雇の場合でも、退職金と勤続功労金、損失補償を支払わなければなりません。退職金の最低金額は、勤続1年未満は賃金の1カ月分、勤続1年以上2年未満は同2カ月分、勤続期間2年以上3年未満は同3カ月分、・・・と勤続期間に応じて定められ、勤続8年以上は9カ月分が算出基準の最長期間となります。勤続功労金は勤続3年以上の労働者から対象(賃金の2カ月分)となり、勤続24年以上の者が最高(賃金の10カ月分)となります。従って、退職金と勤続功労金の最高合計額は賃金の19カ月分になります。自己都合による退職者、重大な過失を犯した労働者、5日間の無断欠勤者については当局の許可なく雇用関係を終了することができます。労働法では、経営者は損失補償金と送別金の支払いのみ義務付けられています。損失保証金は、①未取得の無効となっていない年次休暇(日割り計算)と労働者が採用された場所に帰る費用(家族分含む)、②退職金、勤続功労金が支払われる場合に住宅及び医療費の補償として合計額の15%相当額で構成されています。本来、これらのケースの場合は退職金、勤続功労金の支払いは無く、①のみの支払いで済むはずですが、労働移住大臣決定(No.18.KP.04.29.2004)により、重大な過失により解雇された、あるいは自己都合により退職した労働者にも、勤続功労金の15%相当の住居及び医療費の補償を支払うこととしています。

女性労働者の深夜勤務

<労働移住大臣決定2003年第224号(No.KEP.224/MEN/2003)>
23時から翌朝7時までに女性労働者を就労させる場合、経営者は、栄養のある食事・飲料の提供と就労の場の道徳と安全の確保が義務付けられています。栄養のある食事・飲料とは1,400kcal以上で、衛生的、バラエティのあるメニューの準備が必要で、これは休憩時間に提供され、換金は不可となっています。一方、就労の場の道徳と安全の確保のために、警備員の配備、十分な照明や男女別の洗面所/トイレの設置が義務付けられています。以上は雇用契約、就業規則、労働協約で詳細を定めることができます。また、23時から翌朝5時までに出社/退社する女性労働者のために、送迎車の準備が義務付けられています。安全な送迎地点を決め、その地点と職場の間を往復するもので、車両は会社に登録されなければなりません。

国民の祝日における就業

<労働・移住大臣決定No.KEP.233/MEN/2003>
国民の祝日に労働者を就業させることができるのは、保健サービス、運輸サービス、輸送機器等の修理サービス、観光業、郵便・通信サービス、電気・水道・燃料・天然ガス供給、近代小売店、マスメディア、警備の各分野の業務や、保護団体の業務や、停止により生産工程に支障をきたし原材料を破損させてしまうような業務です。また、これら以外でも、特別な事態の場合には、労働者側との合意に基づき、国民の祝日に労働者を就業させることができます。ただし、国民の祝日の就業には時間外労働手当の支払いが義務付けらています。

18歳未満の就業禁止職種

<労働移住大臣決定No.KEP.235/MEN/2003>
18歳未満の者の健康・安全・モラルを脅かす以下の職種への18歳未満の者の就業を禁じています。研磨機や旋盤、ミシンや織機などの機械、クレーン・フォークリフト、タービン、発電機などの装置、トラクター等の重機にかかわる仕事、地下や水中、2メートルを超える高い場所、電圧50ボルトを超える電力を用いる場所など身体への危険を伴う環境での業務、危険な化学物質を扱う業務、皮のなめし、と殺、動物の飼育等など生物にかかわる危険を伴う業務、建設業務、女子は10kg・男子は12kgを超える人力による運搬、遠隔地や船中での業務、廃品の廃棄や加工、18時から翌朝6時までの仕事、特定の危険な状態と性質を伴う業務。(児童のモラルを脅かす職種)バー、ディスコ、カラオケ、ビリヤード、映画館、マッサージ、あるいは売春が行われる場所での業務、アルコール、性的刺激剤、および/あるいはたばこの宣伝モデル。

以上はインドネシアの労働法の一部にすぎませんが、かなり労働者側に有利な法律であるということが言えます。

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